【背景と目的】輸血による腎移植成績の向上、癌免疫の抑制、易感染性などの免疫修飾(TRIM)誘導が論じられている。TRIMの発現機序にドナー細胞生着によるmicrochimerismの成立が有力視されている。われわれは排他的に存在するであろう同種抗原感作と免疫寛容にはmicrochimerismの成立が重要な役割を演じているのではないかとの仮説の下に一連の研究を行なった。 【研究方法】1.外科手術患者:高性能白血球除去フィルター(47名)によって、同種抗原感作が予防されるか、アグリゲート除去フィルター(40名)と比較評価した。 2.妊婦:Y染色体をマーカーに男児妊娠女性(20名)と女児妊娠女性(5名)の末梢血中の胎児由来DNAを増幅して、定量的に評価した。 3.新生児期輸血小児:5〜11年前に輸血して生存している小児30名とその両親を対象に、同種免疫獲得率を評価した。 【結果】1.外科患者:アグリゲート除去フィルター群と白血球除去フィルター群には夫々平均1234x10^6、0.3x10^6の白血球が輸注された。同種HLA抗体獲得率は17%と5%で両群に差を認めなかった。 2.妊婦:男児妊娠女性の全員にY染色体DNAが検出された。妊娠7-16週頃から検出され始め、24週から漸増し、分娩時にピークに達し、分娩後急速に減少した。 3.新生児期輸血児:調べた30名の小児の誰にも、同種HLA抗体は検出されなかった。28名の母親の2名に児と父(夫)と反応するHLA抗体を検出した。 【考察】外科患者は白血病患者と異なり、深い免疫抑制状態に陥っておらず、高度な抗原処理過程である間接経路はインタクトで、極微量のHLA抗原でも同種免疫感作を惹起するのに十分なのであろう。一方、新生児期は特にT細胞の機能不全が指摘されており、同種抗原に曝されても、抗体を獲得するのは稀である。妊婦全員に胎児由来DNAが検出されたが、分娩後は急速に血中から消失する。一部の母親に胎児細胞が生着し、その抗原に対し、免疫寛容が成立しているのであろう。
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