研究概要 |
今まで、悪性腫瘍特異的な遺伝子発現を画像化によって評価するといった研究はほとんど認められなかった。われわれは、^<11>C(positron emitter)標識アンチセンス・オリゴヌクレオチドの経静脈的投与による、動物脳腫瘍(グリオーマ)モデルにおける遺伝子発現画像化法の開発を行い、さらにアンチセンス・オリゴヌクレオチドを用いたグリオーマの遺伝子治療を、画像化による定量的根拠を持った治療法として完成させるべく研究を行った。まず、C6グリオーマ細胞株のラット脳内移植モデルおよびENU(N-ethyl-N-nitrosourea)誘発ラット・グリオーマモデルでは、免疫組織学的染色によって強染するグリオーマ組織に一致して、アンチセンス・オリゴヌクレオチドの一様な集積が認められた。ところがセンス・オリゴヌクレオチドおよび20%mismatchオリゴヌクレオチド(アンチセンスの配列の内、5塩基に1塩基の割合で相補的な塩基に変えたもの)では周囲の正常脳組織との差異が見られなかったことより、塩基配列特異的な集積と考えられた(Kobori,N.,et al.NeuroReport10:2971-2974,1999)。次いで、ヒト・グリオーマ細胞株のヌードマウス脳内移植モデルを用い、腫瘍の増殖活性と非常に強い相関をもつと考えられる、human telomerase reverse transcriptase gene(hTRT)およびMib-1geneのアンチセンス・オリゴヌクレオチドを用いて同様の研究を行った。結果として、hTRTおよびMib-1共に腫瘍組織に一致した集積が認められ、周辺の正常脳組織には集積が見られなかった。ところが、GFAPmRNAの様な一様な分布とは異なり、hTRTおよびMib-1共に腫瘍中心部に比して腫瘍辺縁部に強い集積が認められた。これは腫瘍の増殖活性が腫瘍辺縁部に強いことと対応する結果と考えられた。画像化法に関する基礎的研究を終えたので、今後、同じ方法を遺伝子治療に発展させるべく研究を続ける予定である。
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