経口的に投与された蛋白質に対する免疫寛容が生じることは広く知られている。そこで、ドナー抗原の経口投与が移植片に対して特異的免疫寛容を誘導するかを調べ、またその効果を増強するために、抗CD4抗体を併用した。抗CD4抗体とドナー抗原(ドナーの脾細胞またはK^b分子)の経口投与は移植心を100日以上生着させた。その上、K^b分子だけを発現している細胞の経口投与で、すべての主要組織適合性抗原が異なる移植心が完全生着した。誘導された免疫寛容は、CD4陽性T細胞の移入で無処置マウスへ移すことができた。よって、今回のプロトコールではindirect antigen recognitionにより免疫制御性のCD4陽性T細胞が誘導され、linked suppressionを通じて移植片の永久生着を誘導したと推論される。 臨床応用時の問題点としては、併存する蛋白に対して免疫寛容となるため、ウイルスや細菌などが偶然に併存した場合には、そのものに対しても免疫寛容となるので、感染症誘発の危険性をはらんでいる。免疫誘導の至適量が、通常の生体内でのウイルスや細菌などの抗原提示量よりもはるかに多ければその問題も回避される可能性があるが、更なる検討を要する。 まとめ 今回の一連のマウス心臓移植モデルを用いた研究から以下の重要な知見が得られた。 (1)ドナー抗原の経口投与にて移植心の生着が延長した。 (2)抗CD4抗体はドナー抗原の経口投与による効果を著明に増強し、移植心の永久生着を誘導した。 (3)Indirect recognitionがdirect recognitionによる拒絶反応を抑制した。 (4)抗CD4抗体の存在下にドナーMHC抗原のひとつが経口投与されれば、他の移植抗原を発現している移植心に対しても免疫寛容が成立した。 (5)抗CD4抗体の存在下に消化管粘膜を通過して併存する蛋白が、移植時にも存在すれば、移植心に対する免疫寛容が成立した。
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