創傷治癒過程におけるストレス蛋白(HSP70)の発現を時間経過、発現量、および局在する細胞について明らかにした、ラット背部の皮膚切開をし、皮下に生食に浸したスポンジを挿入した。1、2、3、5、7、10、14、28、35日目に犠死させた。スポンジ肉芽腫のHSP70の発現をウェスタンブロットで検討した。また、免疫組織学的検討を行った。 HSP70は挿入直後の1から3日目では発現が少なかったが、その後は多くなり、28日目まで継続していた。35日目にはやや減少した。スポンジから分離した線維芽細胞などの間質細胞やマクロファージにおけるHSP70発現との関連は明らかではなかった。コラーゲン産生の指標としてスポンジ肉芽腫のハイドロキシン・プローリンは経時的に増加した。したがって、HSP70は活性化線維芽細胞には必須であり、その機能上重要であることが推察された。これまでの検討で熱ショックによりHSP70の誘導された線維芽細胞は活性化線維芽細胞(筋芽細胞)と同様の性質を示した。また、慢性消化性潰瘍でみられる線維芽細胞(筋芽細胞)にもHSP70が発現していることから、コラーゲン産生の増加などの線維芽細胞の活性化とHSP70の発現は密接に関連することが推察された。 生体中にHSP70を直接誘導することは困難であり、凝固因子と創傷治癒遅延との関連に関する基礎的検討を行なった。縫合不全患者に凝固13因子を投与することによりTGFなどの増殖因子が誘導され、末梢血液中でも有為に増加することが確認された。また、培養細胞のヒト線維芽細胞を用いて凝固13因子の付加によりTGFが誘導された。濃度依存性に発現が増加することから臨床上経験する縫合不全患者では凝固因子を正常値70%以上に保つことが重要であると考えられた。今後、凝固因子を含めHSP70を生体内で有効に誘導する方法を検討する。
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