研究概要 |
線維芽細胞は創傷治癒に不可欠であり、その中心となる。今回、線維芽細胞におけるHSP70の発現と増殖能やコラーゲンおよび総蛋白産生能との関係を検討した。(1)HSP70は1時間後より発現し、8時間後が最も多く発現した。(2)線維芽細胞の増殖能はコントロール群で熱ショックを与えたものは有為に低下していた(p<0.01)。TGF群ではコントロール群より有為に増殖能が低下していた。(3)コラーゲン産生能は熱ショックによる差がみられなかった。総蛋白産生能は熱ショックを与えたものでは増加していた(p<0.01)。線維芽細胞には43℃、1時間の熱処理によりHSP70が誘導された。熱ショック反応により増殖能は低下し、コラーゲン産生は変化なかったが、総蛋白産生能が増加した。 創傷治癒に伴ったHSPの発現がみられたが、これを調節することは現段階では困難であった。高圧酸素療法を用いてHSP70を誘導も試みたが、これは治療によるものかどうか明らかではなかった。一方,縫合不全患者に凝固13因子を投与することによりTGFなどの増殖因子が誘導され、末梢血液中でも有為に増加することが確認された。また、培養細胞のヒト線維芽細胞を用いて凝固13因子の付加によりTGFが誘導された。濃度依存性に発現が増加することから臨床上経験する縫合不全患者では凝固因子を正常値70%以上に保つことが重要であると考えられた。また、敗血症ラットを用いた研究では早期に栄養を開始することにより体重減少を抑制し、大腸吻合部治癒を促進することが明らかとなった。また、吻合手技により創傷治癒機転に影響を与えることを明らかにした。吻合方法により吻合の強さには明らかな差がなかった。大腸吻合部では縫合手技により創傷治癒機転が異なることが示唆され、HSPの発現や血管新生、組織再構築を制御することにより、創傷治癒を促進する可能性が示唆された。
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