肝移植後の移植肝生着率は周術期管理の進歩や免疫抑制剤の投与により飛躍的に向上した。しかし、肝移植後早期の肝不全、いわゆるprimary graft non-fanctionの発生は依然として肝移植における大きな問題の一つである。この発生には移植時の虚血再灌流障害が関与していると考えられている。その原因の一つとして再灌流の際に小腸由来のエンドトキシンの肝内流入が考えられる。移植成績を向上させるためには、この虚血再灌流障害を軽減させることがきわめて重要と考えられている。今回私たちは肝細胞増殖因子(Hepatocyte growth factor: HGF)が肝虚血再灌流障害に対し、肝保護作用があるのではないかと考え以下の実験を行った。動物は約280〜340gのSD系雄性ラットを使用した。HGF群はrecombinant human HGF(rhHGF)を1回1mg/kgで虚血前72、48、24、12時間の計4回投与、control群は0.1% BSA生理食塩水溶液を同量投与した。(1)全肝温虚血モデルを作成し、75分間の虚血後再灌流し、両群における生存率を比較した。(2)70%部分肝温虚血モデルを作成し、60分間の虚血後再灌流し、虚血前、再灌流後6、12、24時間に採血し、血液生化学、血中エンドトキシン濃度、血中cytokine-induced neutrophil chemoattractant(CINC)濃度を測定した。またそれぞれの肝臓を摘出してHE染色にて病理組織学的評価および特殊染色にてproliferating cell nuclear antigen(PCNA)labeling indexを検討した。結果としては(1)HGF投与群の生存率はcontrol群と比較して有意に高値を示した(p<0.01)。(2)虚血再灌流後6、12、24時間においてALT、AST、LDH値はHGF投与群で有意に低値を示した。血中エンドトキシン濃度、血中CINC濃度および肝組織好中球浸潤数も虚血再灌流後6、12時間においてHGF投与群で有意に低値であった。PCNA labeling indexでは虚血再灌流後12時間よりHGF投与群で有意な高値を示した。以上の結果よりHGFはラット肝虚血再灌流障害に対して好中球浸潤抑制作用、肝細胞増殖作用、抗エンドトキシン作用にて肝保護作用を有すると考えられ、HGFが脳死肝移植などの際に高頻度に発生する肝虚血再灌流障害に対する有用な治療薬となりうる可能性が示唆された。
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