腫瘍増殖に不可欠な腫瘍血管の誘導を阻害して腫瘍の増殖を抑制する抗体と、殺細胞効果を有する制癌剤との複合体を作製して、その複合体による癌化学療法を行うことで、抗体単独、あるいは、制癌剤単独よりも優れた抗腫瘍効果が得られ、癌転移巣の制御が可能になるとの仮説のもと、以下の実験を行った。 前年度までの実験に用いた肝転移モデルでは、その作成モデルにばらつきが大きく、in vivoにおける抗腫瘍血管増殖因子(VEGF)抗体-制癌剤(MMC)複合体の抗腫瘍効果が判定できなかった。このため、同複合体のin vivoにおける抗腫瘍効果を明らかにするために、本年度は肝転移モデルに代えて腹膜播種転移モデルを作成し、同複合体の抗腫瘍効果を検討した。腹膜播種転移モデルの作成には我々が先に樹立した高腹膜播種細胞株(PD7細胞)を用いた。その結果、 1.PD7細胞を用いたin vitroの実験において、50%の細胞に殺細胞効果を認める濃度を比較すると、抗VEGF抗体-MMC複合体ではMMC単独の4倍、抗VEGF抗体単独の63倍の殺細胞効果があった。 2.SCIDマウスの腹腔内にPD7細胞を注入して腹膜播種転移モデルを作成後、複合体、抗VEGF抗体単独、MMC単独、PBS(対照)を2回注入し、その2週目に形成されている腹腔内播種結節を比較した結果、複合体群における腹腔内播種結節重量は対照および抗VEGF抗体群に比べて有意に少なく、播種結節を認めないマウスもあった。抗VEGF抗体-MMC複合体は腹膜播種巣の増殖を有意に抑制した。 当初予定した、癌組織の阻血からVEGFの発現を変化させて複合体の効果をみる実験は遂行できなかったが、抗腫瘍血管増殖因子抗体と制癌剤の複合体の抗腫瘍効果増強が証明され、本複合体を用いた癌転移巣の制御の可能性が示唆された。
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