研究概要 |
エンドセリン拮抗阻害ペプタイドであるTAK-044は、全身投与後に血中アルブミンと結合することにより急速に失活する。このため心停止ブタ肝移植実験では、その効果を得るために血流再開前より持続点滴投与する必要があった。そこで本研究では非ペプタイドの拮抗阻害剤SB209670を用いて肝虚血再灌流障害の防止効果を検討した。SB209770は血中半減期が2時間以上とTAK-044にくらべて長時間作用するという特徴がある。[方法]Sprague-Dawley雄ラットを各群6匹ずつ1)対照群(control)、2)エンドセリン受容体阻害剤(SB209670)投与群(ET群)3)生食投与群(NaCl)の3群に分けた。麻酔、開腹の後、生体蛍光顕微鏡を用いて微小循環動態を観察した。その後Pringle法で20分間温肝虚血を施した。虚血解除5分前に、エンドセリン受容体阻害剤および生食を各群別に全身投与した。1)対照群では肝虚血以外の操作を同様に施した。再灌流60分後および120分後に再度観察した。録画画像をもとに類洞灌流率、類洞内膠着白血球数、および中心静脈内膠着白血球数を評価した。同時に類洞および中心静脈の直径を測定した。[結果]虚血再灌流後に類洞径は有意に収縮し、エンドセリン受容体阻害剤の投与によりこの収縮が抑制されることが判明した(各群虚血前との直径比; control 1.02±0.02, NaCl 0.84±0.03, SB 0.91±0.02)。同様に中心静脈径も収縮したが、SB209670投与では抑制されなかった(control 0.97±0.02, NaCl 0.90±0.03, SB 0.90±0.03)。微小循環動態ではSB209670は生食投与群に比して有意に類洞潅流率を改善した(Control 97.6±0.5, NaCl 70.2±6.5, SB 93.3±1.6%)。同時に類洞内白血球膠着を対照群のレベルに抑制した(control 6.4±1.5, NaCl 30.7±6.1, SB 9.3±1.0 cells/lobule)。一方で中心静脈内白血球膠着は生食投与群の約60%に抑制するにとどまった(Control 69.9±20, NaCl 340.3±62, SB 206.9±79 cells/mn^2)。[結論]エンドセリン受容体拮抗薬SB209670は類洞内において虚血後の白血球膠着を抑制し、類洞血流を虚血を行わなかった群のレベルに保持した。一方で中心静脈内では虚血後の白血球膠着を抑制することができず、再灌流時間の経過とともに膠着白血球数は増加した。虚血後の血管径では、エンドセリン受容体拮抗薬は類洞血管収縮を抑制する一方で、中心静脈の血管収縮は抑制できなかた。このことは虚血再灌流障害におけるエンドセリンの影響が肝血管の部位により異なることを示唆している。
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