研究概要 |
ガストリン,ボンベシン,ニュロテンシンといった消化管ホルモンは胃酸分泌や膵外分泌など消化機能の面で働いているのみならず,消化管の構造維持に不可欠な粘膜増殖促進作用を有している.このことはこれらの消化管ホルモンが,大腸粘膜から発生する大腸癌に対しても何らかの作用を有している可能性を示唆している.実際に,その作用機序は不明であるがボンベシンを含めてガストリン,ニューロテンシンといった消化管ホルモンは,一部のマウス可移植大腸癌で腫瘍の増殖を促進すると報告されている.ボンベシンは14個のアミノ酸残基より成るペプチドであり,その免疫活性は広く消化管と脳に認められる.ボンベシンは肺小細胞癌ではautocrine growth factorとして作用しており,癌のautocrine growthのモデルとして有名であるが,これは肺小細胞癌自身がボンベシンを分泌し,自ら有するボンベシン受容体に作用させて増殖を促進するメカニズムに基づいている.我々はラットを用いて,ボンベシンが正常大腸粘膜のDNA合成を促進し,化学発癌による大腸癌の生育を促進する事を明らかにしてきた.特異的な受容体を介して消化管ホルモンは作用を表すが,大腸癌における消化管ホルモン受容体の役割に関しては不明な点が多い.これまで正常大腸粘膜,大腸癌10例ずつの臨床検体を用いて核酸レベルでの消化管ホルモン受容体発現を検討してきたが,消化管ホルモンの受容体はその発現量がかなり低く未だ安定した測定系が確立されていない.今後はガストリンやニューロテンシンといった古典的な消化管ホルモンのみならず,広く生理活性を有するペプチドや蛋白の受容体に研究範囲を広げて大腸癌における生理活性物質の受容体研究を行っていく予定である.
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