研究概要 |
本研究では,遺伝子発現の連鎖解析法(serial analysis of gene expression,SAGE)を用いてヒト胃癌における遺伝子発現異常を包括的に解明することを目的とする。本来,培養細胞系で開発されたSAGEを胃癌組織における遺伝子発現解析に応用するために検討すべき課題として,高純度mRNAの抽出・精製手技の修得と間質成分の混在を最小限にとどめた解析系の確立が不可欠である.本年度は臨床検体の解析に先立ってこれらの課題を克服するために,我々の施設で樹立されたヒト胃未分化癌細胞株KKLSから高純度のmRNAを抽出し,SAGE法により遺伝子発現解析を行った.その結果,この癌細胞株から5182個のtagが得られ,2969種類の遺伝子を定量的に同定した.またリンカーの比率が1.02%と効率的であることも確認した.発現頻度が上位の遺伝子群にはミトコンドリア遺伝子が含まれていたが,Gene Bankに登録されていないいくつかの未知遺伝子の発現も認められた.組織学的には分化傾向を全く示さないKKLSの遺伝子発現パターンは,種々の組織型や分化度を示すヒト胃癌の遺伝子発現を包括的に解析するための基礎データとして極めて重要である.また,我々の施設ではKKLSの浸潤・転移性などの生物学的特性を把握しているので,将来的にはSAGEにより検出された遺伝子を標的とした遺伝子導入あるいは遺伝子ノックアウトなどの実験系に応用可能であると思われる.現在,間質成分の少ない高分化型および髄様型胃癌の臨床検体を収集し,高純度mRNAの調整を進めている.さらに,これらの臨床検体について数種類のmRNAに対するRT-PCRを行い,SAGE解析に適した検体を選定している.今後の解析により,胃癌細胞に特徴的な遺伝子に加えて,KKLSとの比較により胃癌細胞の分化,転移に関する重要な知見が得られるものと期待される.
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