研究概要 |
本研究の目的は,遺伝子発現の連鎖解析法(Serial Analysis of Gene Expression,SAGE)を用いてヒト胃癌における遺伝子発現異常を包括的に解明することである.我々の施設で確立したヒト胃未分化癌細胞株KKLSからmRNAを抽出し,SAGE法による包括的遺伝子解析が培養細胞系では可能である事を既に確認した(平成11年度).本年度は,切除された胃癌臨床検体に対しSAGE法による包括的遺伝子発現解析を進めてきたが,その過程でいくつかの問題が認められた.1つは臨床検体より高純度かつ変性の少ないmRNAをいかにして調整することができるかということである.胃癌の臨床検体採取時に消化酵素等の各種酵素や胃腸内細菌の混入が避けられない.また,胃切除には血管系の結紮切離が先行して行われるため,組織,細胞の壊死は切除時既に進行しており,その後も切除標本の肉眼的所見の確認,写真撮影等の病理学的業務のため組織凍結まで最低1時間は必要とされる.このような状況で臨床検体から抽出したmRNAをSAGE法に使用するには,その収率,純度ともに不良であり,SAGE法のような大規模シークエンスには困難を伴う事が認識された.一方,SAGE法によるヒト胃未分化癌細胞株KKLSの遺伝子発現解析の結果より,発現頻度が上位の遺伝子群にはミトコンドリア遺伝子が多数含まれる事を明らかにした.この点からも,SAGE法により発癌,浸潤・転移に関連する遺伝子群を同定するためには高純度,高品質mRNAの調整が必要不可欠であることが解った.現在,種々の工夫により臨床胃癌検体からSAGE法に適した高純度,高品質mRNAを抽出・精製し,胃癌の発癌と浸潤転移に関連する遺伝子群の同定に向けて鋭意,解析を進めている。
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