研究概要 |
膵胆道癌において高率に神経浸潤とリンパ節転移がみられることは古くより知られている。リンパ節転移は膵癌の最も重要な予後因子であるが、神経浸潤の成立機序ならびに進展様式、さらにはリンパ節転移との関連については明確にされていない。そこで、われわれは切除標本をもとにした臨床病理学的解析に注目し、上腸間膜動脈に垂直な5mm間隔の全割切片を作製し、HE染色、EVG染色などにより神経浸潤の進展様式の解明を試みた。さらに、神経浸潤が明瞭な部位については5μの完全連続切片を作製し、神経浸潤の成立機序の解明を行った。また、家兎を用いた実験的検討も加えた。4,900枚余りの組織連続切片による観察結果から神経浸潤はリンパ管浸潤や静脈浸潤とは異なった進展様式であることが推察された。すなわち、その基本進展様式が連続性親展であること、さらには神経束の分岐点ではいわゆる神経周囲膜の内側で分岐とともに進展することが観察された。この進展様式は家兎VX2腫瘍でも確認された。また、本研究における最も興味深い現象としてリンパ節内への神経浸潤が観察されたことは、新しい癌の進展様式として捕らえる必要があると推察された。一般には、リンパ節転移と神経浸潤は異なる進展様式であると考えられていたが、これらの進展様式の相互作用を考慮すると、今後の膵胆道癌外科治療、とくにリンパ節郭清あるいは神経叢郭清を考える際に無視できない現象である。以上より、神経浸潤は連続性親展を主体とするリンパ管浸潤、静脈浸潤と異なる進展様式であるが、リンパ節転移をおこす進展様式のひとつになりうる現象であると推察された。
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