研究概要 |
VEGFは主要な血管新生因子の一つで、多くの悪性新生物でその発現が報告されている。またVEGF familyのひとつであるVEGF-Cが種々の悪性腫瘍においてそのリンパ行性転移との関連が報告されている。今年度は、VEGF-Cの臓癌における発現、anti-angiogenic therapyの可能性について検討した。 4例の正常膵組織と7例の膵癌組織を用いたNorthern blot法による解析では、ヒト膵癌組織においてVEGF-C mRNAは正常膵組織に比べ有為(約2.2倍)にその発現は高かった。また5種のヒト膵臓癌細胞株を用いた解析でもすべての細胞株でmRNAおよび蛋白レベルでのVEGF-Cの発現が確認された。51例の膵癌症例を用いた免疫染色による解析では80.4%にVEGF-Cの高発現が認められた。また臨床病理学的因子との関連ではVEGF-Cの発現とリンパ管浸潤(ly)とリンパ節転移(n)との間に有意な相関が認められた。予後との解析では有意差は認められないもののVEGF-C発現群で非発現群に比べ生存期間が短い傾向が認められた。VEGF-Cのreceptorのひとつであるflt-4もヒト膵癌組織内のリンパ管組織のみならず癌細胞でもVEGF-Cとの共発現が認められた。またこの発現はVEGFの発現とは独立した発現であり、異なった発現制御を受けている可能性も示唆された。今年度の結果を含め、膵臓癌の増殖、血行性転移、リンパ行性転移にVEGF,VEGF-CといったVEGF familyの発現が関与している可能性が示唆された。これらの知見を基に本研究の最終目標である膵臓癌に対する分子生物学的治療のひとつの方向性が示唆されるものと評価でき、次年度の研究に結びつくものと考えられる。
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