研究概要 |
【目的】ピルビン酸脱水素酵素複合体はミトコンドリアにおけるエネルギー産生において重要な酵素であるのみならず解糖系とトリカルボン酸サイクルを調節している重要な酵素でもある。ピルビン酸脱水素酵素キナーゼ(PDK)によってリン酸化され不活性化されるが、PDKには4つのisoenzyme(PDK1,PDK2,PDK3,PDK4)が存在することが明らかになり、その遺伝子が同定された。今回我々は、人の正常肝組織と硬変肝、肝細胞癌をもちいてこれら4種類のPDKのmRNAを定量しisoenzymeパターンを分析した。【対象と方法】肝組織は肝細胞癌や転移性肝癌に対する肝切除時に採取し、肉眼所見と病理組織所見から正常肝(n=8),硬変肝(n=8),肝細胞癌(n=8)の3群に分類した。これら肝組織からtotalRNAを抽出し、RT-PCR法を用いてPDK1とPDK2、PDK3、PDK4のmRNAを定量した。RT-PCRに用いるプライマーは[H-^<32>P]ATPでラベルした。RT-PCR後、約350bpのPCR産物が得られた。電気泳動を行いこれらの放射活性をlaser image analyzerで測定した。【結果】正常肝におけるPDKのmRNAのisoenzymeはPDK4>PDK2>PDK1でありPDK3は検出されなかった。これは、硬変肝、肝細胞癌においても同様であった。また、発現量は正常肝と硬変肝、肝細胞癌で同程度であった。【考察】ヒト肝においてはPDKの4つのisoenzymeのうちPDK4が最も強く発現していた。飢餓や糖尿病がラット心筋においてPDK4を誘導することが最近明らかにされた。術前の絶食と外科的なストレスにより、患者から得られた肝組織においてPDK4が誘導された可能性がある。これは、ピルビン酸脱水素酵素複合体を不活性化するという意味で極めて重要なことと考えられる。PDK4はヒト肝組織において極めて重要な酵素であると考えられる。
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