研究概要 |
本研究では,重症急性膵炎における細胞性免疫能の低下が病態を修飾しているという仮定に基づき,本疾患における免疫担当細胞の数的・質的変化と,その分子機構を解明する事を目的として,臨床例や実験モデルから採取した末梢リンパ球や組織マクロファージ,実験モデルから採取した胸腺細胞の変化を形態学的,生化学的に解析している. まず,重症急性膵炎症例の末梢リンパ球,とりわけT-リンパ球の絶対数の減少が,その後の臨床経過における感染の有無と相関し,リンパ球減少が著明なものほど後期感染をきたしやすいことを見いだした.一方,膵炎患者や実験膵炎モデルラットから採取直後の末梢リンパ球は,FACScanによる細胞周期解析により正常リンパ球とほぼ同様の細胞周期を示し,DNA電気泳動でもアポトーシスは捉えられなかった.そこで,リンパ球を24時間培養した後に解析したところ,正常人から採取したリンパ球ではアポトーシスが誘導されないのに対し,重症急性膵炎症例の末梢リンパ球では顕著にアポトーシスが誘導されることを見いだした.さらにその分子機構を明らかにする目的で,アポトーシス関連細胞内因子としてFas蛋白の発現をFACScanを用いて解析したところ,重症膵炎症例の末梢のリンパ球においてFas蛋白の発現が増加していることを見いだした.動物モデルを用いた解析では,ラット重症急性膵炎モデルにおける末梢リンパ球,胸腺細胞のアポトーシスが形態学的,生化学的に確認された. 来年度は,アポトーシス誘導因子の中和抗体投与の効果や,これらの因子の産生源である可能性が高いマクロファージ除去の効果を解析して,アポトーシス誘導機構を確認・証明する予定である.
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