本研究では、膵島移植の臨床的確立の為に問題となる、急性拒絶反応について検討した。現状の膵島移植では、急性拒絶の有用なマーカーが存在せず、血糖値の上昇で拒絶を判定している。しかし、血糖値は移植膵島の90%以上が障害を受けて始めて上昇するため、早期診断には適していない。従って、適切な拒絶のマーカーの発見は、膵島移植の成績向上のためには必須であるといえる。膵臓移植において、我々は、膵炎のマーカーである、血中の膵分泌性トリプシンインヒビター(PSTI)が、膵拒絶のマーカーとして有用であることを示した(Transplantation 1992;53:992)。 そこで、本研究では当初、このPSTIが、膵島移植でも有用かどうかを中心にして、膵島移植における拒絶マーカーの同定を目指して、実験的検討を開始した。平成12年度までに、大動物(イヌ)からの膵島分離、精製の技術を確立し、自家膵島移植、同種膵島移植の実験系を確立した。また、我々が開発した二層法を用い、実際の臨床に即応できるシステムを構築することが出来た。更に、実際の臨床に即したイヌを用いた膵島移植の実験系で、膵島移植の拒絶反応のマーカーに関して検討した。まず、PSTIの有用性の検討を試みたが、現在、PSTIの測定は技術的に困難であり、断念せざるを得なかった。ついで、膵島の移植先である肝臓に着目し、拒絶反応により、移植先である肝臓に何らかの変化が認められると考え、同様に検討を進めた。その結果、同種移植においては、特異性には乏しいものの、肝からの逸脱酵素の一つである血中GPTが、血糖値の上昇に先立って上昇することが確認された。この変化は自家移植では認められなかった。このことから、血中GPT値は、拒絶のマーカーの一つとなりうる可能性が示唆された。更に、組織学的に検討するために、血糖上昇時に開腹し、組織を採取し検討したが、一般的なHE染色においては、明らかな変化は認めなかった。今後は、免疫抑制剤を使用した際にも同様な変化が観察しうるか、特殊染色等を追加し、GPT上昇と組織学的な変化に相関が認められるかを更に検討する予定である。
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