膵島移植は臓器提供者から摘出した膵から、インスリン分泌細胞を含む膵島を分離し移植する細胞移植の一種である。膵臓移植と比較し、移植手技が簡便であり、移植患者への侵襲が極めて小さいという長所を持つ。しかし、未だ解決すべき問題点が山積している。事実、移植数、成績とも膵臓移植には及ばないのが現状である。 我々は従来から、膵島移植の臨床的確立に向けて検討を続けてきた。我々が開発した臓器保存法の二層法を膵島分離前の膵保存に応用することで、膵島収量が従来より大幅に増加することを示し(Surgery 1997;122:435)、ミネソタ大学との共同臨床治験においても、世界ではじめてone donor one recipientの膵島移植に成功した(Am J Transplant 2001;supple 1:180)。 本研究では、更なる問題点として、膵島移植の際の急性拒絶反応について検討した。現状では、急性拒絶の有用なマーカーが存在せず、血糖値の上昇で拒絶を判定している。しかし、血糖値は移植膵島の90%以上が障害を受けて始めて上昇するため、早期診断には適していない。従って、適切な拒絶のマーカーの発見は、膵島移植の成績向上のためには必須の事項であるといえる。我々は、膵炎のマーカーである、血中の膵分泌性トリプシンインヒビター(PSTI)が、膵臓移植時の膵拒絶のマーカーとして有用であることを示した(Transplantation 1992;53:992)。 今回、実際の臨床に即した大動物(イヌ)を用いた膵島移植の実験系で、膵島移植の拒絶反応のマーカーに関して検討した。当初、PSTIの有用性の検討を試みたが、現在、PSTIの測定は技術的に困難であり、断念せざるを得なかった。ついで、膵島の移植先である肝臓に着目し、同様に検討を進めた。その結果、同種移植においては、特異性には乏しいものの、肝からの逸脱酵素の一つであるGPTが、血糖値の上昇に先立って上昇することが確認された。この変化は自家移植では認められなかった。現状では、マーカーとしては、特異性に乏しいが、血中GPT値はマーカーの一つとなりうる可能性が示唆された。今後、免疫抑制剤を使用した際にも同様な変化が観察しうるか、GPT上昇と組織学的な変化に相関が認められるかを更に検討し、論文として発表する予定である。
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