分子腫瘍学の発達により消化器外科領域の癌については大腸癌を中心にして癌化や悪性化の仕組がわかってきた。大腸癌で明らかになった2つの発癌経路のうち、DNAミスマッチ修復異常が原因となる発癌経路において、直接癌化に関与する癌関連遺伝子群の多くは分かっていなかった。我々は細胞周期に関与する重要な転写活性因子E2F-4を、この経路における重要な癌関連遺伝子と同定した。これは、他の研究者によって追試されており、現在では多くの総論等でも我々の成果が引用されている。 この度の研究期間では、このE2F-4異常に基づく発癌機構をある程度明らかにできた。また、特に抗癌剤に対する薬剤耐性についても有用な知見が得られてきている。具体的にはNIH3T3細胞に変異E2F-4を組み込んだ発現用ベクターをstableにtransfectionした細胞株を樹立したが、形質転換がみられ、増殖速度が増加しco-transfectionしたE2FのConsensus sequenceを有するreporter遺伝子の転写活性を種々の細胞株における研究で、上昇させることを見いだした。これは、癌で見つかった変化が、種々の細胞周期において重要な遺伝子の転写を変化させていることになり、癌化に関与した変化と考えられる。 一方、DNAミスマッチ修復異常を原因とする発癌経路を有する大腸癌では、ミスマッチ修復の異常により、iu vitroの系では、放射線感受性、アルキル化剤に対する感受性、5FUに対する感受性、プラチナムに対する感受性が低下することが報告されている。しかし、TGFβRII等のターゲット遺伝子の遺伝子変異により抗癌剤への感受性が変異するという報告は今までない。E2F-4はターゲット遺伝子の一つであるが、我々の樹立したE2F-4を変異させた細胞株では種々の抗癌剤に対する薬剤感受性に違いがみられた。ミスマッチ修復異常による発癌経路において、癌関連遺伝子が抗癌剤耐性獲得に関わっていたという初めての報告となる。
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