研究概要 |
トロンビンは血液凝固反応において不可欠の因子であり、そのプロテアーゼ活性によりフイブリノーゲンからフイブリンを形成する。この他にも、血管内皮細胞の活性化や単球の遊走刺激、血管平滑筋や線維芽細胞の増殖作用など多彩な作用がある。トロンビンの細胞に対する作用は、そのプロテアーゼ活性により、形質膜上の7回膜貫通型のトロンビン受容体(Protease-activated receptor-1:PAR-1)によって担われる。最近、PAR-1とホモロジーの高いcDNAがクローニングされ、PAR-2と命名された。PARが活性化される際には、細胞外アミノ末端領域が切断され、新しい断端のアミノ酸残基が内在性リガンドとして反応することが判明している。DICなどの外科的侵襲の際、PAR-1,-2の切断ペプチドの血中レベルを測定することによって、活性化トロンビン量を定量的に査定することが本研究の元来の目的であったが、更にPARの機能解析を進めるために、新しい断端のアミノ酸6残基を人工的に合成し、ヒトglioblastoma細胞を用い、PAR-1,-2受容体シグナル伝達、細胞形態及び増殖に対する作用、Protein kinase C(PKC)のトランスロケーションについて検討した。合成ペプチドによってPAR-1,-2を刺激すると細胞内カルシウムシグナルが発生したが、PAR-1アゴニストペプチド刺激後、PAR-2アゴニストペプチドで刺激してもカルシウムシグナルは発生せず、cross desensitizationが認められ、PAR-1,-2の間に密接な機能的関係があると考えられた。PAR-1,-2刺激で、ともに細胞形態の変化が認められ、またPKCのトランスロケーションにおいても共通もしくは特異的に活性化されるものがあり、PAR-1,-2は密接な関係はあるが、それぞれに特異的な細胞応答を惹起することが示唆された。
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