研究概要 |
癌転移抑制遺伝子nm23-H1はATPのエネルギーを用いてヌクレオシド3リン酸の合成反応を触媒する普遍酵素(nucleoside diphosphate kinase A)をコードしており、近年、その転移抑制作用に加え、抗癌剤シスプラチン(CDDP)感受性との関連が注目されている、我々はnm23-H1の発現とEFP(etoposide,5FU, CDDP)療法後の食道癌患者の予後とが関連することを免疫組織学的に確認し、さらに遺伝子操作によりnm23-H1の発現が直接CDDP抵抗性に関与していることを報告してきた。また、nm23-H1はCDDPの細胞内流入に関与するNa+, K+-ATPase活性とリンクしており、その発現低下によりNa+, K+-ATPase活性が低下し、結果としてCDDPによる核内DNAおよびミトコンドリアDNAの障害を減少させることを初めて立証した.これらの結果は、個々の症例におけるCDDP感受性を判定する上で、nm23-H1の発現解析が重要であるばかりか、CDDPの抗腫瘍効果を増強するという観点から、nm23-H1をターゲットとした新しい治療法確立の臨床的有用性を示峻するものである。nm23-H1の薬剤による誘導に関しては転写レベルでnm23-H1の発現を誘導することが報告されたγ-リノレン酸(不飽和脂肪酸)添加により、当科で樹立したヒト食道癌細胞6株のうち4株で、nm23-H1 mRNAおよびタンパクの発現が誘導されており、これら4株全てにおいてCDDP感受性の亢進を確認した。しかし、残る2株に対しては無効であり、全ての癌細胞におけるnm23-H1の発現誘導を達成するためには、遺伝子治療を応用したnm23-H1の発現誘導が必須である。nm23-H1のantisenseを組み込んだアデノウイルスベクターを用いて、食道癌細胞株にantisense nm 23-H1をin vivo transfectionすることにより、nm23-H1の発現低下によるCDDP感受性の低下を確認した。現在までにその他の遺伝子療法に関する基礎的実験は終了しているが、アデノウイルスベクターを用いたin vivo transfectionによるnm23-H1の発現誘導の達成が今後の課題である。
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