研究概要 |
【研究目的】肝細胞の増殖には、主に肝細胞増殖因子(HGF)が関与し、塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF)はほとんど無効であるという培養系での報告が多い。しかし、肝癌組織及び再生肝に多量のbFGFが含まれていることがイムノブロットを用いて報告されている(Prestaら1989年、Brigstockら1991年)ことから、bFGFが肝再生あるいは肝細胞増殖に重要な働きを持つ可能性が高いと考えられる。本研究では、平成9、10年度の研究成果に基づき、bFGFの再生肝における作用機序を明らかにし、肝切除後SIRS(systemic inflammatory response syndrome)制御のために下記項目について検討中である。 【方法】I.基礎的検討 1)bFGF受容体の検討:bFGF受容体の経時的変化を蛋白レベルでラット再生肝モデルを用いて検討する。 2)阻害蛋白の抽出:bFGFとの結合を抑制する阻害蛋白の抽出を生化学的に行う。 3)再生肝に対するbFGFの作用:肝切後bFGF及びその拮抗剤を門脈持続注入し、bFGFの生体内での効果を検討する。 II.臨床的検討 4)周術期SIRSにおけるbFGFの関与:ヒト各種肝切除の術中、術後における血中bFGFおよび各腫サイトカイン (IL6,IL8,TNFαなど)、可溶性接着分子(ICAM,ELAN)を測定し症例を蓄積検討する。 5)周術期SIRSの制御の試み:肝切除などの高度侵襲下手術の術中から蛋白分解酵素阻害剤を使用し、血中bFGF濃度、各腫サイトカイン(IL6,IL8,TNFαなど)、可溶性接着分子(ICAM,ELAN)を測定し術後SIRSを制御しうるか否かを検討する。 【結果】ラット再生肝モデルでbFGF受容体の局在変化を検討中であり、bFGFとの阻害剤蛋白の生化学的抽出を検討中である。臨床的には、大侵襲下手術(肝切除を中心に)周術期におけるサイトカインの変動を症例蓄積中であり、蛋白分解酵素阻害剤の術前投与を行うことでSIRS制御が可能か否か現在検討中である。
|