【本研究の目的】 これまで常識とされてきた"肝癌の肝内転移は経門脈的に生ずる"という肝内転移形成メカニズムと異なり、"肝癌細胞が肝静脈→心臓→肝臓という全身血流経路により、肝に再び至り、肝癌細胞の肝への"臓器親和性"により肝内転移を形成する"という全く新しい概念を"臓器親和性"を規定する責任遺伝子を同定することにより明らかにする。 【研究実績】 a:肝・肺への高転移株ならびに非転移株の作成 C3H/HENマウスにマウス肝癌細胞株MH134を、脾臓に1×10^6個注入し2週間後に犠死させ、これを5代目まで繰り返し100%肝転移を認める高肝転移株を作成した。また、MH134をマウス尾静脈より1×10^6個注入し、2週間後に犠死させ、これを5代目まで繰り返し100%肺転移を認める高肺転移株を作成した。現在、limiting dilution法による非転移株作成中である。 b:転移能の確認と腫瘍形成能の確認 高肝転移株をマウスの脾臓に1×10^6個注入したところ、3代目では80%、4代目以降は100%の転移能ならびに腫瘍形成能を認めた。また、高肺転移株をマウス尾静脈より1×10^6個注入したところ、3代目では60%、4代目では80%、5代目では100%の転移能ならびに腫瘍形成能を認めた。 c:mRNAの分離、mRNA differential display法の確立 differential display法は、各臓器高転移株樹立とともに行ったが、結果が不安定なため、現在はDNAマイクロアレイおよびサブトラクション法を用いて包括的な遺伝子診断と責任遺伝子群の同定(sequenceを含めて)を行っている。 d:エレクトロポレーション法を用いたvitroでのplasmidのtransfectionの確立 エレクトロポレーション法に関しては、マウス肝癌皮下モデルを用いて、IL-12遺伝子治療を行い、主腫瘍への直接効果ならびに微小の遠隔転移巣に対する効果を確認し、この結果をCancer Researchに報告した(in press)。 e:ヒストン脱アセチル化の重要性の発見 さらに、これら実験の過程で、histone deacetylaseの強発現が肝癌の増殖・転移に極めて関係が深く、独立予後不良因子となることも発見し、現在Hepatologyに投稿中である。
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