研究概要 |
我々は肝臓癌を対象にしたdifferential display法によって、癌部でmRNAの発現が欠損しているCXCケモカインSDF-1に相当する遺伝子を単離・同定した。さらにこの遺伝子がヒト健常組織では広く発現しているが、大腸腺腫及び多くのヒト株化癌細胞では発現が欠損していることを報告した(Biochem.Biophys.Res.Comm.,1996)。臨床の消化器癌組織での発現を詳細に調べた報告はなく、発癌や癌の増殖進展過程における機能的役割は未だ不明のままである。またそのレセプターCXCR4に関して、これまでヒト癌組織における発現を解析した報告はない。そこで我々は消化器癌(大腸癌、食道癌、胃癌、肝臓癌)におけるSDF-1とCXCR4のmRNA発現量ならびに癌組織における発現の局在を検討した。肝臓癌、大腸癌、食道癌、胃癌を対象として、癌部(T)および非癌部(N)よりRNAを抽出し、RT-PCR法によりSDF-1およびCXCR4のmRNA発現量をTとNの発現量の比率(T/N比)として半定量的に算定し、臨床病理学的因子との関係やリガンドとレセプターの発現量の相関関係を解析した。また免疫組織化学染色にて癌部と非癌部での発現の局在を比較検討した。【結果】(1)SDF-1のT/N比(平均±標準誤差)は、肝臓癌:0.40±0.07、大腸癌:0.38±0.09、食道癌:0.43±0.07、胃癌:0.70±0.09で癌部での発現が非癌部と比較して著しく低下していた。(2)CXCR4の発現は肝臓癌でのみ癌部での発現が低下しており(T/N比:0.65±0.11)、その発現量はSDF-1と有意に相関していた(p=0.002)。(3)肝臓組織の免疫組織化学染色においてSDF-1,CXCR4の発現は、ともに中心静脈周囲の肝細胞質内に限局していた。以上より、(1)SDF-1の発現は消化器癌で著しく低下しており、CXCR4の発現は肝臓癌でのみ低下していた。(2)肝臓では癌部でSDF-1とCXCR4の発現量が相関し、非癌部でも局在部位がほぼ一致していることから両者の機能的な関わりが示唆された。(3)消化器癌におけるSDF-1とCXCR4の発現は、発癌過程に何らかの重要な関与をしていることが示唆された。
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