尿中にΔ^4-3-オキソ胆汁酸を高濃度に排出し、Δ^4ー3ーオキソステロイド5β還元酵素(5β還元酵素)欠損症が疑われた新生児肝炎症例4例(これらの症例では、新生児肝炎を引き起こす機知の疾患は様々な検査により否定された)につき、その肝組織を使って、5β還元酵素を分子生物学的に調べた。 まず、剖検もしくは肝移植で得られた肝組織から、肝細胞のサイトソール分画を超遠心法で抽出し、ラットの5β還元酵素に対するモノクローナル抗体を用いたイムノブロッテイング法で、5β還元酵素の有無とその量を測定した。全症例において、酵素自体は存在していたが、その量は少なかった。また、肝細胞からRNAを精製した。4症例のうち1例で、ヒト5β還元酵素cDNAをプローブとして使ったRNAブロットハイブリダイゼーション法により5β還元酵素のmRNAを調べることができたが、この症例では正常な長さのRNAがわずかながらも存在していた。さらに、4例全例において、RNAからreverse transcriptase PCR法で5β還元酵素cDNAをクローニングし、その塩基配列を調べたところ、いずれの例でもmutationは見られなかった。 従って今回調べた4症例は5β還元酵素の欠損症ではなくて、何らかの重症肝疾患による酵素活性の低下がおこっているものと考えられた。しかし、この酵素活性の低下は重症肝疾患児の極一部の症例で見られるのみであることから、これらの症例では、5β還元酵素遺伝子の制御領域の異常がある可能性も考えられた。
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