生下時より徐々に増悪する新生児肝炎を呈し尿中にΔ^4-3-オキソ胆汁酸を多量に排出するため、Δ^4-3-オキソステロイド5β還元酵素の欠損症が疑われる症例4例につき、酵素を分子生物学的手法で調べた。症例は生後5から10ヶ月の乳児で、全例黄疸を呈しその原因が解らず、3例は肝移植を受け、1例は肝不全のため死亡し剖険を受けた。これらの症例の肝組織を調べた。 肝内の本酵素の蛋白をラットのΔ^4-3-オキソステロイド5β還元酵素に対するモノクローナル抗体を使ったイムノブロット法で調べたところ、患児では正常な分子量を持つ酵素蛋白のバンドはみられたが、成人に比べるとその量が少なかった。またその量は、重症肝疾患を有する他の乳児とは同レベルであった。また、本酵素のmRNA量をRNAブロットハイブリダイゼーション法で調べたところ、mRNAに相当するバンドは存在し、mRNAの長さも正常であった。しかしその量は成人や他の乳児にくらべ非常に少なかった。患者肝における本酵素のcDNAをRTPCR法でクローニングし、塩基配列を調べたところ正常人と同じで、mutationはみられなかった。 尿中にΔ^4-3-オキソ胆汁酸を多量に排出するため、胆汁酸生合成経路におけるΔ^4-3-オキソステロイド5β還元酵素の欠損症が疑われた患者は、これまで世界で20例近くいるとされているが、これに対する分子生物学的な調査はほとんどされていなかった。このため、こうした症例が、遺伝子異常による真の欠損症なのか他の原因による本酵素活性の二次的低下なのかが論争になっていた。今回のわれわれの研究では、尿中にΔ^4-3-オキソ胆汁酸を多量に排出する症例であっても、遺伝子異常による酵素欠損症よりも重症肝障害による二次的な酵素活性低下が考えられるという結論になった。
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