研究概要 |
今回我々は、ヒト膵管癌の実験系であるハムスター膵発癌系において、細胞外マトリックス分解酵素(MMPs)の膵癌発生および、進展過程に対する役割を明らかにするとともに、血清中のMMPsの測定による膵癌血清診断の可能性を検索した。 材料としてニトロサミンにより誘発された原発性膵癌(primary pancreatic cancer,PC)および、ハムスター膵管癌皮下継代移植株(transplantable hamster pancreatic duct carcinoma,HPDt)を用い、MMP-2,9、tissue inhibitor of MMP(TIMP)-1,2、のmRNA発現をノザン解析にて、MMP-2蛋白の発現を免疫組織化学染色にて、さらに、その酵素活性をゼラチンザイモグラフィーにより解析した。またHPDtをハムスター背部皮下に移植し、腫瘍の増大にともなう血清中のMMPs発現をザイモグラフィー解析により検討した。ハムスター正常膵臓(normal pancreas,NP)と比較してPCおよびHPDtではMMP-2,9、TIMP-2,のmRNAの過剰発現がみられた。抗MMP-2抗体による免疫組織化学染色では、膵管上皮の過形成、異型過形成、膵管内癌、浸潤癌と病変が進展するにつれMMP-2蛋白発現が強くなる傾向がみられた。つまり、可逆性病変から前癌病変に到る段階で、MMP-2が重要な働きをなす事が示唆された。また、ゼラチンザイモグラフィーにおける活性型MMP-2の発現はPC、HPDtで上昇していた。担癌ハムスターにおける血清中のMMP-2,9の発現量は腫瘍の増大と相関しており、しかも、皮下の腫瘍が比較的小さい時期にすでに血清中のMMP量の増加が認められ、今後、MMPが癌進展の一つの指標になる可能性が考えられた。以上の結果より、ハムスター膵癌の発生および進展にMMP-2の発現活性化が重要であること、MMPsをマーカーとした膵癌の血清診断の可能性が示唆された。
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