研究概要 |
癌悪液質には脳内サイトカインの産生が関与するという報告があるが,本研究の目的は,担癌生体において脳におけるTNFaとIL-1bのmRNA発現が亢進するか否かと,強制栄養を行うことによって担癌生体における脳ならびに諸臓器のTNFaとIL-1bのmRNA発現が影響を受けるか否かを解明することである.C57BL/6マウスを用い,Ehrlich's ascites tumor cellを背部皮下に移植する担癌モデルを作成.担癌群と非担癌群を各々自由経口摂取群と強制経腸栄養群に分けて検討した.食事摂取量と体重増加は,腫瘍移植後3週目に共に担癌群で有意に非担癌群より減少した.強制栄養を行っても担癌による体重増加の減少は抑制できなかった.脳におけるTNFaとIL-1bのmRNA発現は,腫瘍重量が0.25±0.03gと非常に小さい時期である腫瘍移植後3週目に既に2倍量の発現を示し,4週目には6〜7倍量の発現を示していた.一方,肝,脾,骨格筋,空腸といった諸臓器では,腫瘍移植後3週目に有意な増加はなく,4週目になってようやく2〜4倍量の発現増加を示したに過ぎなかった.血中のTNFaとIL-1bも測定したが,血中でも移植後4週目に増加を示していた.以上の結果から,サイトカインの発現の見地に立ってみると,担癌の状態を末梢諸臓器よりいち早く脳において認識されていることが判明し,これらの発現が血中ならびに末梢諸臓器のサイトカインの発現に影響を及ぼし,ひいては癌悪液質の状態を引き起こす可能性が示唆された.また,強制栄養はこれらのサイトカイン発現には影響を及ぼすことなく,かつ,担癌生体の体重増加にも寄与せず,さらに,自由摂取群よりも腫瘍の増大が著しかったことから,担癌患者への強制栄養は注意を要することが判明した.今後の癌悪液質治療への展望として,脳内サイトカインの制御が重要な位置をなす可能性が考えられた研究結果である.
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