研究概要 |
転移性肝癌を有する大腸癌患者に対して、肝動脈からIL-2,MMC,5-FUの注入を施行する予定であったが、近年のIL-2の動脈注入による副作用の報告、またその有効性に対する懐疑的な報告、十分なインフォームドコンセントを得ることの困難さ等の理由により、この免疫化学動注療法をみあわせている状況である。我々は当該年度は癌の肝転移の予防に重要な役割を持つと考えられる末梢血NK細胞の新たな機能評価を以下のごとく行った。 1、末梢血NK細胞のミトコンドリア膜電位(NKΔψm)を測定し、これがNK細胞の生物学的活性の新たな指標となりうるかを検討した結果、末梢血NK細胞活性と、NKΔψmには相関が認められた。 2、末梢血リンパ球を脱共役剤(CCCP)にて処理した際のNKΔψmの低下とNK細胞活性の減衰には強い相関が認められた。さらに、NK細胞をIL-2,IL-12で活性化させた際のNKΔψmの上昇、CD16抗体によるアポトーシス刺激によるNKΔψmの低下が確認された。以上よりNKΔψmの測定により、NK細胞の機能を簡便に評価できると考えられた。今後肝内リンパ球に関してもNKΔψmを測定し、大腸癌肝転移との関連を調べる予定である。 また転移巣の微細環境の重要性に関して、以下の知見を得た。 HCV感染患者においてNK細胞活性は低下しているにもかかわらず、HCV感染肝における大腸癌の肝転移頻度は正常肝に比較し優位に低い傾向が認められている。そこでHCV感染患者と一般健康人のNKΔψmを比較検討したところHCV感染患者のNKΔψmは、一般健康人に比較し低い傾向が認められた。この事象は癌の肝転移は免疫担当細胞の機能低下のみにて規定されるのではなく、転移巣(肝臓)の微細環境の影響を受ける可能性があることを示唆させるものである。
|