腫瘍特異的な遺伝子発現は、がんに対する遺伝子治療の安全性と効率にとって重要な課題である。そこで腫瘍細胞に強く発現し、正常組織に発現がみられない遺伝子、あるいは腫瘍細胞に高発現をみる遺伝子のプロモーターに着目し、その転写調節領域を解析した。その結果 (1)ミッドカイン遺伝子はヒトの消化器がんに高頻度に発現する遺伝子で、ヒトの食道がんでは14例中8例に、肝がんでは15例中14例に強い発現を認めた。しかし、いずれ腫瘍の場合も同一患者の非がん部における発現は全く認めなかった。(2)ミッドカイン遺伝子の転写調節領域を用いてレポーターアッセイを行なうと、転写開始点より550bp上流までの領域に、腫瘍細胞における特異的な転写を司るシスエレメントが存在していた。(3)胃がん、食道がん等で強い発現をみるc-erbB-2遺伝子の転写調節領域を用いて、プロモーター活性を測定すると、転写開始点より250bp上流までの領域は、腫瘍細胞において強い転写活性を示したが、正常線維芽細胞では転写活性が極めて弱かった。(4)腫瘍増殖にともなって生じる低酸素状態に反応して、遺伝子発現が高まるVEGF遺伝子について、その転写調節領域を検討したところ、転写開始点より1.2kb上流に低酸素反応領域が存在した。(5)これらのプロモーター領域の下流に自殺遺伝子(HSV-TK)を結合し、腫瘍細胞に発現させると、プロドラックに対する感受性が著しく増強した。(6)自殺遺伝子療法として、deoxycytidine kinase/ara-C、uracil phosphoribosyl transferase/5-FU系の有用性を示した。
|