研究概要 |
Klotho遺伝子は個体老化と血管障害を抑制する新規遺伝子である.klotho遺伝子の病態生理学的意義を検討するために,klotho蛋白の標的となりうる血管平滑筋の増殖様式の基礎研究を行った.平滑筋細胞増殖分子機構においては転写因子のレベルで未知の点が多いため,我々はzinc finger型転写因子のbasic transcription factor binding protein 2 (BTEB2)に着目した.まず,BTEB2がin vitroで平滑筋増殖に重要な役割を担うことを確認した(Watanabe N, et al. Circulation Res 1999 ; 85 : 182-191. Kawai-Kowase K, et al. Circulation Res 1999 ; 85 : 787-795).すなわち,平滑筋細胞の増殖刺激によりBTEB2遺伝子は発現が誘導された.その結果血管平滑筋の形質変換が誘導され,BTEB2遺伝子は血管病変の形成に関与すると考えられた.次いでBTEB2がin vivoでも同様の役割を演じていることを確認した.この時我々が用いた動物モデルは,従来のバルーンを用いた血管内膜障害モデル(論文4),心移植モデル(論文2-4),血管移植モデル(論文4,5)及び外科的侵襲による血管内膜障害の新しいモデル(血管吻合部狭窄モデル)であった(論文1,6).なおこの血管吻合部狭窄モデルでは,ラット腹部大動脈に対し切開縫合による侵襲を加えた結果2週間目をピークに内膜肥厚が完成することが確認された.我々はこのモデルを血管外科分野の新しいモデルとして有用であると考えている. 今回の一連の研究で以上の実績を上げたが,1)BTEB2遺伝子を導入したアデノウィルスを用いて培養血管平滑筋細胞における増殖抑制効果を確認する.2)我々の確立した血管吻合部狭窄モデルにBTEB2遺伝子導入を行い血管内膜肥厚の抑制効果を検討する.3)BTEB2遺伝子とklotho遺伝子の相互関係を検討する,などの更なる目標は達成できなかった.今後の研究が待たれるものである.
|