今回の研究では、遺伝子導入法として、既存のvirusを用いた導入法で問題であった生体への炎症の惹起という点を克服し、かつ遺伝子導入効率の良い、virusを用いない安全な遺伝子導入法の生体内での血管に対する効果について検討することを目的とした。 リポソーム-transferinリガンド-遺伝子複合体を用いた遺伝子導入効率について、繰り返し、rat肝臓への局所注入にて、生体内への遺伝子導入効率について検討したが、その遺伝子導入効率は低く、満足いくものではなかった。引き続き、遺伝子とリポゾームの配合比率、濃度などについて異なる条件下で同様の追加検討を加えたが、HVJ-リポゾーム、Adenovirusを用いたベクターに比し、その導入効率は低く満足いく結果を得られず、臨床応用可能な安全な遺伝子導入法としては、不十分であると結論した。 同時に、静脈グラフト、血管のremodelingの病因として、外膜からの各種の刺激は重要な役割を担っていると考えられ、その病態生理について、血管の吻合面の外側にフィブリン糊を外膜に塗布し、病理的に検討を加えた。その結果、フィブリン糊は、縫合糸や操作の炎症に起因すると思われる内膜の肥厚病変を抑制する傾向が見られた。縫合糸周囲のマクロファージの浸潤もまったく認められなかった。フィブリンなどでの外膜側の保護は、急性期の内膜肥厚を抑制し、また、各種薬剤や、遺伝子導入用のベクターを混ぜることなどの担体として有用である可能性が示唆された。 また、遺伝子導入などのターゲットを探求する目的で、血管肥厚病変におけるAdrenomedullinの役割について検討し、機械的傷害後の血管中膜平滑筋細胞におけるAdrenomedullinの発現がその病態生理に関与していることを見出した。
|