当教室に凍結保存された臨床的背景の判明している肺癌手術検体を用いて肺癌組織中のポリシアル酸の発現を検討した。その結果、小細胞肺癌に於いては全例でポリシアル酸の発現が認められ、これは従来の報告に一致する結果であった。一方、原発性肺癌の約4分の3をしめる非小細胞肺癌におけるポリシアル酸の発現に関しては従来報告が無かったが、今回の検討において非小細胞肺癌に於いてはポリシアル酸は病期の進行と密接に関連して認められることが明らかとなった。すなわちリンパ節・遠隔転移を認めない1期非小細胞肺癌症例ではポリシアル酸の発現はほとんど認められないのに対して、広範囲縦隔リンパ節転移を認める3期症例や遠隔転移を認める4期症例では殆どの症例でポリシアル酸の発現を認めた。次に現在までにクローニングされている2つのポリシアル酸転移酵素(PSTとSTX)についても検討を行った。興味あることにPSTは肺癌組織だけでなく正常肺組織に於いても発現を認めたのに対して、STXはポリシアル酸と同様に1期症例では殆ど発現を認めず3期や4期症例の殆どの症例で発現を認めた。これらの結果は、ポリシアル酸やその転移酵素STXが非小細胞肺癌の進行、特に転移の成立に於いて重要な役割を果たしていることを示唆しており、ポリシアル酸やその転移酵素STXが非小細胞肺癌の診断や治療上のマーカーとしてのみならず、新たな治療の分子標的になりうる可能性を示している。この結果は既に論文として採択され現在印刷中であり、今後、ポリシアル酸やその転移酵素STXの予後因子としての臨床的有用性を検討する予定である。
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