研究概要 |
心臓血管外科手術では、循環停止法は手術補助手段として有用であるが、特に脳保護が解決すべき重要な問題点の一つである。近年、脳虚血後にNF-kB(NF)が活性化され神経細胞障害を起こすことが報告され、一方、核酸医薬であるNF decoyによる虚血後神経細胞障害抑制の可能性があり、NF decoyを循環停止中に脳循環に注入することで虚血耐性獲得が可能であると考えられる。そこで全脳循環停止中に脳循環にNF decoyを投与し、その神経細胞保護効果を検討した。(方法)350gの雄SDラットにて、HVJ-lipospme法を応用し4℃に冷却した溶液2mlを右総頚動脈から注入する一過性全脳虚血モデルを作成した。20分間の全脳虚血後、脳血流を再開、麻酔を覚醒した。まずFITCをラベルしたNF decoyを脳循環へ注入し、再灌流後1時間で蛍光顕微鏡で観察し導入の確認を行った。次にNF-kB decoyを注入、1時間後にTNF-a,IL-1b,ICAM1のmRNAをPCR法にて定量化し、control群(scrambled decoy投与群)と比較し、その抑制効果を検討した。また、7日後に犠牲死させ、これら脳組織の海馬CA1領域における神経細胞の障害をTUNEL染色(DNA障害の確認)、およびmicro tuble associated protein免疫染色を行い検討した。(結果)蛍光顕微鏡にて、血管内皮、海馬、大脳皮質の神経細胞の核に蛍光が認められ、NFdecoyが導入されたことが確認された。次に、PCR法にてTNF-a,IL-1b,ICAM1のmRNA量はNF群にて抑制され、組織学的検討では、CA1領域におけるTUNEL染色陽性核の割合は有意にNF decoy群で低値であった。また、MAP陽性細胞数は、有意にNF群で高値であった。(結語)ラット一過性全脳虚血モデルにおいて、脳循環停止下における脳神経細胞へのNF-kB decoyの血行性導入が確認され、NFkBの虚血後神経細胞障害への関与とそれに対するdecoyの保護効果が示めされた。以上より循環停止法における脳障害へのNF-kBの関与と、その抑制法としてのNF-kB decoyの脳保護効果が示唆された。
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