成犬を用いた脳死状態誘導により、1.脳死誘導後にみられる左心機能障害の程度。2.脳死誘導後における心筋酸素消費量と冠動脈血流量の変化。3.in vivoにおける冠動脈内皮機能障害の有無。以上の3点について検討した。 1.に関して、脳死誘導直後に左心機能の急激な亢進および緩徐な低下が認められ、脳死誘導前よりも低下することが判明した。2.に関して、心筋酸素消費量の指標として圧・容積関係より圧・容積面積を算出し、これを用いた。心筋酸素消費量および冠動脈血流量は脳死直後において急激に増加しその後、緩徐に減少した。3.に関して、冠動脈内皮機能の指標として、冠静脈洞からの採血によりNOの代謝産物であるNOxの測定、および内皮依存性血管拡張物質であるアセチルコリンとセロトニンの冠動脈内への投与を行った。脳死誘導前後においてNOxの値に有意な変化は認められなかった。また脳死誘導後のアセチルコリン、セロトニンの投与に対する冠血流の反応を観察したが2群間に有意な差は認めなかった。 脳死により心機能の急激な亢進および緩徐な低下が認められるが、この原因の1つとして冠動脈の血管内皮機能の低下の関与が考えられる。また急激な心筋酸素消費量増加に対する冠血流の相対的な供給不足およびそれによる心筋虚血もまたその原因の1つと考えられる。未だ実験症例数が少なく、十分な検討ができていない状況である。今後、脳死誘導後の冠動脈血管内皮機能のさらなる検討を行っていく予定である。
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