研究概要 |
昨年度に引き続いて,in vitroおよびin vivoの実験を平行して実施した. 1) in vitro experiment 昨年度にラット前脳からミトコンドリアを単離するシステムを用いて,以下の実験を行った.すなわち,虚血に対して強い耐性を有する新皮質,および,虚血に対して脆弱な海馬CAlを,ラット断頭後,氷上で分別して,それぞれのミトコンドリアを単離した.各部位におけるミトコンドリアにpermeability transition(PT)の来たしやすさに格差があるかどうか,確認する目的で,さまざまな濃度のカルシウムをミトコンドリア浮遊液に負荷して,吸光度の変化を持続的に測定した.しかしながら,PTを生じるカルシウム濃度の閾値には差がみられなかった.両者のミトコンドリアともcyclosporin AによってPTが抑制されたことより,虚血の脆弱性はPTよりも上流の現象によってコントロールされていることが推測された.さらに,PTによってミトコンドリアから細胞質へ放出されるcytochrome cは,肝ミトコンドリアに比べて微量であり,PTののちに生じるapoptosisのメカニズムに臓器間の相違があることがWestern blottingにより証明された.これは,ミトコンドリアからのcytochrome c放出を抑制するとされるcycloheximideは,ミトコンドリア浮遊液で観察されるPTを抑制しなかったこととも一致した. 2) in vivo experiment 砂ネズミの前脳虚血モデルを用いた実験を今年度も実施した。昨年度の実験では,cyclosporin Aの虚血後投与が海馬CAlにおける遅発性神経細胞壊死を著明に抑制することが判明した.Cyclosporin A(CsA)とともにPTを抑制することが知られているtrifluoperazine(TFP)を,単独に,あるいは,cyclosporin Aとともに砂ネズミに投与した.これにより,CsAとTFPの相乗的保護効果が認められた.二重免疫染色およびWestern blottingによって海馬CAlの神経細胞にcytochrome cの細胞質内への放出が生じるかどうかを調べたが,明らかなcytochorome cの経時的放出は認められられなかった. 以上の結果の一部を北海道医学雑誌に報告した.現在,国際誌への投稿を準備中である.
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