脳腫瘍、特に悪性脳腫瘍は近年種々の治療法が開発される中で、依然として予後不良な疾患であり、手術療法、化学療法、免疫療法、遺伝子治療と共に、脳腫瘍の温熱療法についての基礎及び臨床研究もまだ充分な成果を上げるまでには至っていない。現在までに施行或いは考案されている脳腫瘍に対する温熱療法に関しては、RF波誘電加温法、microwave誘導加温法、implant誘導加温法などが報告されている。我々はリポソーム包埋マグネタイトを用いた温熱療法を検討してきた。この方法はリポソームを正電荷に荷電することにより、腫瘍組織内に十分な拡散性が得られるうえ、細胞内へ取り込まれるために細胞内加温という理想的な温熱療法が可能となり、温熱療法に新しい方法として位置づけられる。今回、マグネタイトの材型を脳内腫瘍モデルに対して取り扱いやすくし、しかも温熱治療効果をさらに高めるために、carboxymethylcellulose(CMC)とmagnetiteとを混和調整したCMC-magnetiteを使用し、温熱処理をおこなった後の腫瘍内の組織学的変化を観察し、至適材型条件を検討した。また、温熱療法と免疫誘導との関連性を検討するため、HSP70の発現と細胞免疫誘導との関連性につき検討した。その結果、1)高周波磁場処理による腫瘍内拡散状態はCMC-magnetiteでも腫瘍内に拡散し、磁場処理を重ねるたびに拡散が進行していくことが明らかになった。2)温熱効果にて生じた脳腫瘍壊死はCMC-magnetite注入部位を中心として腫瘍広範囲に顕著に認められた。ベルリンブルー染色ではマグネタイトは注入部位から腫瘍組織内へ拡散して行く状態が明瞭になり、磁場処理によって広く分布が誘導されていることが確認された。3)本温熱療法により磁場処理後24時間経過した腫瘍組織内には壊死組織周辺にHSP70が帯状に強く発現しており、その部分にはMHC class Iの発現の増強を認めた。腫瘍周囲にはマクロファージやリンパ球の浸潤も認め、その多くはCD8+Tcellの集積も認め、本治療法が免疫誘導している可能性が示唆された。
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