研究概要 |
1)Antisense GluR2を用いたGluR2仮説の検証 ラット脳室内にGluR2 antisense oligodeoxynucleotide(ODN)を定位的に脳室内に投与し、組織化学的に細胞死誘導の有無を検討した。10nM、5μlのGluR2 antisense ODNを12時間毎に4回の注入を行った結果、最終注入2日後より海馬CA1およびCA3領域に部分的神経細胞死を認めた。antisenseの有効性の確認の為行った、in situ hybridization及びWestern blotにより、GluR2 mRNA/蛋白の減少が経時的確認された。NMDA型受容体(AP5,MK-801)およびAMPA型受容体(CNQX,Naspm)拮抗薬を同時投与したところ、後者でのみ細胞死の誘導が抑制され、本現象にCa^<2+>透過型AMPA型受容体が強く関与していることを明らかにした。さらに,通常では細胞死の得られない2分間の閾値下前脳虚血を与えた砂ネズミにおいて、事前に脳室内にGluR2 antisenseを投与した動物では、海馬CA1領域に遅発性神経細胞死が得られ、antisenseによる人為的なGluR2 knock downによって誘導される細胞死が、虚血による遅発性神経細胞死と共通のメカニズムを持つものであることが強く示唆された。以上の実験結果は遅発性神経細胞死におけるGluR2仮説を強く支持するものである。本研究結果の概要はJ Neuroscience 19:9218-9227,1999等に発表した。 2)新たなAMPA受容体拮抗薬の開発およびAMPA受容体拮抗薬脳室内投与によるtherapeutic windowの決定 5分間前脳虚血0,6,24時間後の砂ネズミー側脳室内に、AMPA拮抗薬Naspm(naphtyl acetyl spermine)を投与した所、10mMの濃度で、0&6時間後に虚血保護効果が認められた。NaspmはGluR2を欠いたAMPA受容体の特異的拮抗薬であり遅発性神経細胞死におけるGluR2の重要性を示唆するとともに、虚血保護の為には、早い時間帯から同受容体をブロックする必要性のあることが示唆された。 3)脳虚血におけるgap junctionの役割 これまで全く報告のなかった前脳虚血(20分)における海馬gap junction(connexin32,36,43)の経時的な変化を後述のknock-out mouseの背景strainであるC57BL/6マウスを用い、in situ hybridization,Northern blottingおよびWestern blottingによりmRNA/蛋白レベルで観察した。この結果、いずれのconnexinもmRNAレベル、蛋白レベル共に変化がないかわずかに増加することが分かった。 さらに、虚血におけるgap junctionの機能的役割を知るため、Cx32 knock-out mouseおよびwild type mouseの両側頚動脈を10分間遮断し、3日後、海馬の組織学的変化の違いをを観察した。その結果、Cx32 knock-out mouseでは虚血に対するsusceptibilityがwild typeより高いことが明らかになった。このことは、gap junctionに虚血保護効果のあることを示唆するものである。 本研究結果の概要は1999年8月及び10月のinternational gap junction meeting(スイス)、米国神経科学会(マイアミビーチ)、2000年10月の日本脳神経外科学会総会にて発表し、J Neuroscienceに投稿中である。
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