9Lラット脳腫瘍細胞にDNA修飾酵素であるO6メチルグアニンメチルトランスフェラーゼ(MGMT)をレトロウイルスベクターで導入した9L-MGMT細胞は、ACNUで代表されるニトロソウレア系抗癌剤に耐性であることが確認されており、本研究では、この細胞を用いて、細胞内でMGMTのアンチセンスを過剰に発現させることにより再びニトロソウレア系抗癌剤に対して感受性を取り戻す事ができるかどうかについて検討をおこなっている。前年度、レトロウウイルスベクター及び非ウイルスベクターを用いてMGMTのアンチセンスRNAを9L-MGMT細胞に導入して抗癌剤への感受性を細胞障害性試験により測定したところ、いずれの方法でも腫瘍細胞の50%細胞増殖抑制濃度等に有意差は認められなかった。これらの結果はアンチセンスの発現量の問題によるものか実験のデザイン自体の問題なのかが不明であったため、今年度はアンチセンスを高発現する組み換えアデノウイルスベクターを作製してRNAアンチセンスの効果を同様の試験により調べた。MGMTに対して-18/41部及び-4/650部に対応するアンチセンスを発現するアデノウイルスベクターを作製し、ベクターの構造が正しいことを確かめた後に細胞に感染させたところ、ノーザンブロット法で9L-MGMT細胞でのMGMTの発現抑制を確認した。さらに細胞障害性試験でも有意差を持ってACNUへの感受性を与えることを確認した。しかしどちらのウイルスでも感受性の増感はなお低く、50%細胞増殖抑制のためには高濃度の薬剤が必要とされることが判明した。このため次年度は本研究で提唱したもう1つのアプローチであるリボザイムを発現するベクターを作製して効果の比較を行っていく。
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