研究概要 |
脊椎症,靭帯骨化症,転移性脊髄腫瘍など硬膜外からの慢性圧迫による脊髄障害の病態を検討するため,緩徐に膨張する子宮頚管拡張剤を圧迫材に用いた脊髄持続圧迫モデルを作成し,主として脊髄白質の病変を組織学的に検討した.ラットの下位椎弓下硬膜上に圧迫材Dilapan(Gynotech INC.)を留置して持続圧迫し,圧迫部脊髄の光顕および電顕による組織学的検討を行った.【結果】1)圧迫後7日までの急性期では,後索と隣接する灰白質に限局した出血性壊死をわずかに認めたが,多くは組織破壊はなかった.灰白質前角や側索・前索の壊死はなかったが,3日〜7日目に前角細胞のChromatolysisが一部に観察された.2)白質では,浮腫が24時間後から出現し,圧迫部位とは関係なく白質全体に観察された.軸索変性を伴う海綿状変化が1〜2週間で著しく,同時に脱髄も伴っていた.3.電顕による観察では,側索で2日目以降,軸索は浮腫性膨化しミエリン解離も伴っていた.軸索変性も同様に観察された.側索及び前索には,軸索変性の他に,髄鞘の菲薄化ないし脱落した軸索が多数観察された.4.稀突起膠細胞に対する免疫組織化学所見で,白質での細胞数の減少が1週以降で認められた.5.TUNEL法による観察では,白質に陽性細胞が圧迫後24〜48時間で認められ,72時間で最も多く観察された.【結論】本モデルは,急性圧迫モデルとは異なり,脊髄灰白質も含めて破壊性壊死はほとんどなく,慢性圧迫による脊髄障害の検討モデルとして妥当と考えられた.本モデルでの脊髄持続圧迫による病変は,主として白質における持続する軸索変性と脱髄性変化であった.残存軸索における脱髄性変化の原因として,稀突起膠細胞がapoptosisに陥いり,脱髄が生ずる可能性が示唆された.
|