脳細胞外液中のアミンやペプチドを測定する方法として普及しているマイクロダイアリシス法を用いて、経静脈投与した抗癌剤の脳細胞外液中における濃度を測定した。平成11年度は、in vitroでの抗癌剤の検量線の作成と、ラット正常脳における薬剤の脳細胞外液中の濃度の測定を行った。検量線作成の為には、生理食塩水を脳細胞外液にみたてて、種々の濃度のACNU(ニトロソウレア系抗癌剤、日本では最も使用されてきた脳腫瘍治療薬)を溶解させ、マイクロダイアリシスプローブをその中に入れ、マイクロダイアリシスを行った。得られた試料液は高速液体クロマトグラフィー法により分析し、濃度を測定した。その結果、生理食塩水中のACNUの濃度(y)とマイクロダイアリシスにより得られた試料液中のACNUの濃度(x)との間にはy=-0.065+8.36xという関係が、直線回帰分析により得られ、相関関数は0.999であった。ACNUの測定限界は0.1マイクログラム/mlであった。次にフィッシャーラットを吸入麻酔下、定位固定装置にて頭部を固定し、穿頭にて右前頭葉を露出、マイクロダイアリシスプローブを皮質下3mm挿入し固定した。経静脈的にACNU10mg/ラットを投与し、直後からマイクロダイアリシスを行い、10分毎、60分後までサンプリングを行った。検査線にあてはめて、脳細胞外液中のACNUの濃度を計算すると、10分値、1.44マイクログラム/ml、20分値、1.77マイクログラム/ml、30分値、1.85マイクログラム/ml、40分値、1.39マイクログラム/ml、50分値、1.14マイクログラム/ml、60分値、1.18マイクログラム/mlであった。比較のため測定した血中濃度は10分値、36.86マイクログラム/ml、20分値、14.52マイクログラム/ml、30分値、11.54マイクログラム/ml、40分値、9.77マイクログラム/ml、50分値、8.40マイクログラム/ml、60分値、8.42マイクログラム/mlであった。なお1mgACNU投与では、マイクロダイアリシスの結果、測定限界以下であった。以上の結果から、正常脳細胞外液中へのACNU移行は血液脳関門の機能の為、血中の数十分の一に制限されていることが判明した。しかし血中のACNUが比較的急速に減少するのに対し、脳細胞外液中のACNUの減少はゆるやかであることも示唆された。平成12年度は、ラットに移植脳腫瘍をつくり、腫瘍細胞外液中のACNUの濃度の検討を行う予定である。
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