虚血性脳傷害に対する急性期軽度低体温療法は極めて有効な脳保護効果を有する可能性がある。実験動物脳虚血モデルを用いて、その効果を検討した。特に血管閉塞後、再灌流の達成されることのない永久局所脳虚血に基づく強度の脳梗塞に対する脳保護効果を検討した。永久局所脳虚血モデルに関しては、再現性よく虚血巣の出現する従来のモデルでは、長期生存が困難で、長期予後の評価が不可能であったため、当研究グループは、局所永久脳虚血導入後も長期にわたり、生存する新たな永久局所脳虚血モデルを作成し、このモデルを用いて、軽度低体温の有する脳保護効果を長期にわたり、検討した。その結果、1.24時間にわたる軽度の低体温療法は、虚血開始後、3週間後に判定した脳梗塞巣の体積を有意に縮小させた。2.24時間にわたる軽度の低体温療法は、虚血後に生じる脳神経脱落機能を急性期から慢性期にかけるすべての期間において改善した。3.局所脳血流は、局所永久脳虚血開始直後より徐々に改善したにも関わらず、虚血開始2日後に判定した脳梗塞巣体積に比し、その3週問後の亜急性期に計測した脳梗塞巣が有意に増大していた。4.長期軽度低体温療法は、急性期の脳傷害のみではなく、いわゆる遷延性脳梗塞巣の増大をも阻止することが明らかとなった。すなわち、局所永久脳虚血という病態においては、急性期に脳虚血が改善する一過性局所脳虚血的な性格があるにも関わらず、その後、遷延性に病巣の増大が起こり得ることが示された。この原因としては、局所の脳浮腫あるいは血管内血栓の成長等の機構が考えられた。軽度の低体温は、これら、亜急性期の病態進展に抑制効果を果たすことが明らかとなった。
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