ラットの胸髄を急性圧迫して脊髄不全損傷モデルを作製した。前年度よりNを増やして検討を行った。これに対してアンチトロンビン3を静脈投与し、脊髄誘発電位測定を行い、術後急性期の波形変化を観察した。大脳刺激による脊髄誘発電位と脊髄刺激による脊髄誘発電位を測定した。また下肢の麻痺の回復具合を経時的に観察し、Tarlovスコアの推移を術後4週間検討した。その後、脊髄をホルマリンにて経心的に灌流固定して摘出し病理標本を作製、H.EおよびK.B.染色にて組織を観察した。薬剤を投与しないコントロール群と比較検討した。その結果、アンチトロンビン3投与群では、有為に脊髄誘発電位の振幅低下が少なく、術後の下肢麻痺の回復(Tarlovスコア)がよかった。病理組織標本の観察の結果、コントロール群では圧迫損傷部のみならず頭尾側方向に脊髄損傷範囲が拡大していたのに対し、アンチトロンビン3投与群では脊髄の壊死範囲が少なかった。アンチトロンビン3は、好中球の活性化を抑制し、血管内皮細胞を保護する薬理作用があることが知られている。脊髄損傷に対しても有効である可能性がある。脊髄損傷後に二次的に発生する血管系の破たんを抑制し血流を維持することで、脊髄の二次損傷の拡大を抑えられる可能性がある。血管を温存し新生を促進させることは脊髄損傷治療にとって重要と考えられる。
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