研究概要 |
細胞老化における遺伝子発現変化が、変形性脊椎症の発症・進行に関与している可能性を検討した。ラット椎間板細胞を培養・継代し、細胞老化に至った細胞よりRNAの抽出を試みたが、ラットの細胞では細胞老化に至り分裂が完全に停止する時期がない。分裂速度が低下するクライシスの時期でのRNA抽出も試みたが、その判定は不確実なため、サブトラクション法による遺伝子発現量の差の検討は不可能であった。そこで、確実に分裂が停止し、細胞老化に至るヒト椎間板細胞で検討するため、手術時に得られた椎間板の線維輪細胞を培養・継代した。しかし、ヒト椎間板細胞の分裂速度はラットに比し遅く、研究期間内のRNA抽出は不可能であった。 次に、マウス頸椎症モデルを用いて脊柱変性に際して発現する遺伝子・蛋白の検討と、細胞増殖〜細胞死などの細胞動態を検討した。TUNEL法により検討したアポトーシスは、加齢と共に軟骨終板で発生しており、特に生後3〜6ヶ月で著明であった。頸椎症モデルでは軟骨終板におけるアポトーシス発生が、正常加齢に比して統計学的に有意に亢進していた。終板軟骨細胞数は加齢や頸椎症モデルで減少しており、アポトーシスが脊柱加齢変性の一要因であることが推察された。一方、PCNAの免疫染色で検討した細胞増殖は、頸椎症モデルにおける骨棘形成部で認められた。組織学的な軟骨増殖部の存在に一致した結果であった。さらにin situ hybridization法による遺伝子発現の検討では、隅角部の細胞周囲でGDF-5,BMP-6,BMPレセプターの発現が、骨棘形成の時期に応じて認められた。 また、ラットの線維輪及び髄核細胞を用いて若年群と老齢群における遺伝子発現を検討した。細胞増殖やプロテオグリカン合成に関連する遺伝子発現をRT-PCRにて検討すると、TGF-b, TGF-bレセプターI, IGF-Iレセプターについては、加齢に伴う遺伝子発現の減少が認められた。ともに、椎間板の組成が加齢と共に変化し、水分を失って変性する原因を示唆する結果が得られた。
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