近年、細胞工学の進歩により組織再生の研究が盛んに行われている。腱組織は豊富なコラーゲン線維からなる強靭な結合組織であるが、血流は豊富ではなく、治癒過程もいまだ完全に解明されてはいない。我々は腱組織修復を人為的にコントロールして再生を促進するために細胞増殖因子に注目している。本研究においては、まず腱の治癒過程において損傷部に集積する細胞および細胞増殖因子の由来、発現時期、その役割を免疫染色とin situ hybridizationを用いて明らかにし、その相互作用を明らかにする。 今年度は腱損傷部位におけるTGF-βおよびFGF、type collagenとtype collagenの発現とその時期を解析した。ラットアキレス腱を用いて、TGF-βおよびFGF、type collagenとtype collagenの発現時期について免疫染色を用いて解析した。その結果、TGF-βは術後1週から2週で最大の発現を示し、引き続いてFGFの発現が最大となった。また、同時期にtype collagenの発現が最大となり、引き続きtype collagenが最大の発現を示した。 以上の結果をふまえて、生体内での各細胞増殖因子の至適濃度や至適投与部位、そして至適投与方法を確立する必要があると考えられる。また、担体としてコラーゲンやゼラチンなどが報告されているが、我々の開発しているリポソームは新しいDrug Delivery Systemとして注目されており、全身投与のみならず、サイトカインを局所に投与する方法としても有用であると思われる。また腱の修復方法が縫合糸に頼っている現状を考えると、縫合糸に細胞増殖因子が包埋されて、修復部分に作用することが最も理想的と考えられる。これらの手法の比較検討により、腱組織修復における至適細胞増殖因子を至適濃度で局所に投与する方法を開発する。本研究により、腱縫合後の修復過程が短縮され、早期のリハビリテーションが可能となり、患者の機能的予後を大きく改善することができると考えている。
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