研究概要 |
(目的)生体用金属材料は体内で不動態膜を形成することによって電気化学的安定性(耐食性)を得ると同時に低毒性を確保している.しかし,摩擦環境下では不動態膜は損傷を受け,耐食性は低下する.我々は体内環境を模した腐食環境下でCo-28Cr-6Mo,SUS316L,Ti-6Al-4V合金を摩擦し,不動態膜損傷度を電気的に測定し,摩擦損傷度と金属溶出量の関係について検討した. (方法)擬似環境として70mlのPBS(-)を使用した.Pin-on-Disk摩擦試験装置にUHMWPE Disk上で金属Pinを加圧しながら3.6〜108mm/sの一定速度で摩擦した.金属摩擦面の表面粗さをRa<0.1μmに仕上げた.その間,(1)2電極法による自然分極電位を経時的に測定し,金属同士を摩擦して得られた分極電位を100%不動態膜破壊電位として,UHMWPEと金属の摩擦時に得られた分極電位から金属表面の不動態膜損傷度を推定した.更に,(2)3電極法による一定の分極電位を金属試験片に負荷し,負荷電圧(カソード,アノード電圧)に対する金属溶出量をICP分析により測定した. (結果および考察)(1)摩擦速度3.6mm/sではSUS316L,Co-28Cr-6Mo,Ti-6Al-4V合金は全て良好な不動態膜を維持した.特に,Ti-6Al-4Vは低摩擦速度では他の2合金に比べて高い耐食性を維持した,いずれも0〜15%程度の損傷度であった.(2)摩擦速度23.5mm/sでは全般に損傷度は20〜50%程度に上昇した.更に摩擦負荷上昇に伴って損傷度が上昇する傾向が観られた.Ti-6Al-4Vの不動態膜損傷度は30%以下であった.(3)摩擦速度108mm/sでは低摩擦負荷(20N以下)では不動態膜維持能は良好であるが,高負荷になるに伴って明瞭な損傷度上昇が観られた.特に,Ti-6Al-4Vの不動態膜損傷度は著しく低下し,摩擦負荷200N(60MPa)以上では80%に達し,最も損傷度が高い結果となった.(4)Co-28Cr-6Moの摩擦に伴う金属溶出量は電圧非制御条件下では67.27μg/70ml,不活性領域E_<corr>=-1.0V(vs.SCE)では1.68μg/70mlであった.不動態領域E_<corr>=+0.3V(vs.SCE)では211.96μg/70mlであった.不動態膜損傷によって金属溶出量は大幅に上昇することが確認できた.
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