初めての研究室で初めての研究費執行のため、まず研究代表者専用の実験機器の組み立て及び試薬等の調達から開始した。機器の設定は平成11年12月までにほぼ完成し、平成12年1月から実験ができる状態となった。この間、心筋虚血プレコンディショニングの国内外における研究伸展状況について情報収集を行った。平成10年秋に提出した実験計画調書では、単離心室筋細胞の細胞膜ATP感受性K(K_<ATP>)チャネルにパッチクランプ法を適用して、各種麻酔薬の電気生理学的特性を調べる予定であったが、この1年間に多くの類似の研究報告がなされた。しかしながら同方法を用いて心室筋K_<ATP>チャネル活性を検討している研究グループは、皆一定の傾向が得られず非常な混乱に陥っていることがわかった。これはK_<ATP>チャネルがATP以外にもADP、pHの変化、Mg^<2+>、Na^+やCa^<2+>濃度の変化、さらにadenosineやPKCなどの種々の生理活性物質や細胞内情報伝達物質によっても制御されているためで、本法はほんのわずかな実験条件の差で結果が大きく食い違ってくる可能性が危惧された。そこで急遽計画を一部変更し、麻酔薬がK_<ATP>チャネルに及ぼす効果を調べる電気生理学的実験は、ウサギ心室筋多細胞標本を使って行うことにした。一方パッチクランプ法を使った実験は、まだどこの施設でも行われていないミトコンドリアK_<ATP>チャネルで行うことにした。そのため現在、肝細胞のミトコンドリアで行った実験方法(Inoue et.Al.NATURE、1991)を参考にして、心筋細胞のミトコンドリアK_<ATP>チャネルを単離する作業(giant mitoplastsの作成)を行っている。これが成功すれば平成12年度中には何らかの結果は出せると考えている。
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