1.体外循環中の血清S100蛋白を測定した。対象は予定手術の17人(平均57.5歳)で、血清S100蛋白はILMA法によって測定した。術後脳梗塞で死亡した1例(弓部大動脈置換術)を除き、臨床上明らかな脳障害が発生した症例はなかった。麻酔維持はプロポフォールまたは揮発性麻酔薬で行い、麻酔導入から体外循環開始までに投与されたフェンタニル量ほ、平均1.2mg(0.8〜2.0mg)であった。S100蛋白の対照値は平均0.89±0.65ng/mlであった。S100蛋白は人工心肺直後から漸増し、人工心肺離脱時に最大値1.92±1.22ng/mlに達した。しかし死亡症例を除いて加温再灌流時にS100蛋白が急上昇した症例はなく、人工心肺離脱直後からS100蛋白は漸減した(ICU入室時、1.49±1.19ng/ml)。術後覚醒遅延を起こした症例や腎機能障害を有する症例、死亡例は高値で推移する傾向が認められた。プロポフォールと揮発性麻酔薬でS100蛋白の違いは明らかでなかった。人工心肺を使用しない症例のS100蛋白は、ほとんど変動しなかった。今後脳虚血に対する麻酔薬のプレコンディショニング効果について研究を行いたい。 2.洞結節自動能に対するプロポフォールの作用を電気生理学的に検討した。標本は家兎(体重2〜3kg)の洞結節・心房中隔を含む右心房を使用した。プロポフォールは濃度依存性に自動能を抑制し、3μM以上で有意差が認められた。アトロピン前処置した標本においてもほほ同じ効果が認められた。いずれもwash outでほぼ対照値に戻った。50μMで活動電位持続時間(APD_<100>)の短縮が認められた。今後の展開は細胞膜K_<ATP>チャネルだけでなく、5-hydroxydecanoate(5HD)や(diazoxideなどを使用してミトコンドリアK_<ATP>チャネルにもアプローチする予定である。
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