研究概要 |
目的:臨床的に,低酸素脳症に対する全身麻酔薬の保護効果が示唆されているが,その作用機序は明らかでない.海馬の電気生理学的性質に及ぼす実験的脳虚血の作用について,脳スライス標本を用いた検討を行った. 方法:ウィスター系雄性ラット(100-200g)を麻酔後断頭して海馬を摘出し,海馬スライス(400μm)を作成した.スライスは脳チェンバー内のliquid/gasinterface上に置き(37℃),人工脳脊髄液(ACSF)および95%O_2/5%CO_2混合ガスを灌流した(pH=7.4).Schaffer collateralfiberに刺激電極を置き,CA1領域にガラス管微小電極を刺入した.微小電極用増幅器を用いてCA1錐体細胞の集合電位(PS)を記録した(0.1Hz)二連刺激(40ms)によりPSの促通反応(PPF)を誘発し,低酸素の影響を検討した.95%O_2/5%CO_2と95%N_2/5%CO_2を混合することによりCO_2濃度を一定に保ったまま低酸素負荷(hypoxic hypoxia)した. 結果:180秒間の低酸素(10%O_2)曝露によりPSの振幅は抑制され,PPFは著明に増大した.これはPS1の抑制がPS2の抑制よりも強いことによった.上記の低酸素負荷による影響は,酸素濃度を95%に戻すことにより回復傾向を示したが,PPFの増大効果は持続した. 考察:低酸素負荷中・後に認められたPPFの増大は,(a)NMDAレセプタなどの促進性シナプス伝達の亢進,あるいは(b)GABAレセプタなどの抑制性シナプス伝達の抑制によると考えられる. 今後の展望:すでに我々は同じ標本を用いて,促進性および抑制性シナプス伝達に及ぼす全身麻酔薬の効果を明らかにしており,我々のデータをもとに脳虚血に対する全身麻酔薬の保護作用を明らかにしてゆく計画である.
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