研究概要 |
我々は脳虚血および再灌流中の臨床使用濃度の吸入麻酔薬の脳内エネルギー代謝に与える影響を核磁気共鳴法(magnetic resonance spectroscopy,31P-MRS)を用いて調べた。その結果イソフルラン、セボフルランに比較してハロタンを用いた群で有意に細胞内pH(pHi)、アデノシン3リン酸(ATP)の回復が遅延したことを報告した。その際、クレアチンリン酸(PCr)濃度の回復には遅延が見られなかったことからクレアチンキナーゼ(PK)によって触媒されるPCr+ADP→Cr+ATPの反応をハロタンが障害していることが予想された。今回の実験の目的は1)ハロタンの作用が濃度依存性かどうか、2)飽和移動法(saturation transfer technique,ST)を用いてハロタンおよびイソフルラン麻酔下でのCK反応係数(kf)を求め、比較することである。 1).Wistar系ラットを3群に分け(1MACハロタン、2MACハロタン、1MACイソフルラン群、MAC:minimum alveolar concentration,各n=7)それぞれ9分間の前脳虚血を負荷し、再灌流後2時間までのリン酸化合物濃度を計測した。その結果前回の結果同様イソフルラン群にくらべてハロタン群では有意にATPおよびpHiの回復は遅延したが2ハロタン群間では有意差は見られなかった(初年度)。 2)ラットを1MACハロタン、1MACイソフルランの順に麻酔する群、逆の順番で麻酔する群の2群に分け、各々麻酔安定後にSTによるCK反応定数(kf)を測定した。その結果、両群間でpHiおよびリン酸化合物濃度に差は見られなかったがkfはイソフルラン群では0.30±0.04(s-1)であったのに対しハロタン群では0.24±0.05と有意に減少が見られた。PCrからATPへのエネルギーの受け渡しがハロタンによって障害されていることが示唆された。以上の結果から、ハロタンが臨床使用濃度でも脳エネルギー代謝障害をきたし、脳虚血の危険が想定される脳神経外科領域での使用には適さないことが推察された。
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