臨床研究として神経障害性疼痛患者のレニン・アンジオテンシン系の各種遺伝子多型に関する解析を継続した。対象患者は、難治性慢性疼痛疾患の代表であるComplex Regional Pain Syndrome(CRPS)患者とした。この結果ACE遺伝子多型のなかでDD型遺伝子は約1/3ときわめて高頻度で観察された。またDD型を示した患者ではACE活性が他の二つの遺伝子群に比較して有意に上昇していた。CRPS患者では交感神経機能が亢進していることはよく知られており、DD型の多いCRPS患者では何らかの遺伝的な素因も疼痛発症機序に関与しているものと推察されたまたアンジオテンシノーゲン(AGT)の産生に関与しているAGT遺伝子多型解析を同時におこなったが、アンジオテンシノーゲン遺伝子発現に関しては疼痛患者と有意差がなかった。 動物実験としては、雄性SHR及びSD雄性ラットを用いて、疼痛側と非疼痛側の両下肢に熱刺激を加えて、両下肢足底の熱刺激に対する逃避時間を測定した。その結果、疼痛側では、1週目以降両群ともに有意に逃避時間が短縮した。末梢神経損傷後の疼痛過敏発現に対しては、SHRの血圧上昇を来たす遺伝的背景は影響しないことが推測された。次にSHRにアンジオテンシン2(ANG-2)1型受容体のmRNAに対するアンチセンスオリゴDNA(ODN)を脳内用い視床下部傍室核に微量注入して受容体の産生を阻止し、血圧と神経因性疼痛への影響を検討した。この結果各種刺激に対する疼痛閥値がODN投与のみでは変化しなかったことから、中枢内RA系は神経因性疼痛モデルの発症とは関連が薄かった。 以上の基礎的、臨床的研究結果からレニン・アンジオテンシン系は抹消では神経障害性疼痛に対しては促進的に作用し、中枢内ではむしろ抑制的に作用している可能性が示された。今後は治療への応用を図る予定である。
|